私はトラック販売、介護会社のエリアマネージャーや不動産関連の仕事をしていた中でかなりハードなクレームへの対応をしていました。
特に介護会社はコムスンという日本で最も早く24時間365日の介護を始めた会社でしたが、本当に24時間何があるか分からない会社でした。当時、クレーム対応のノウハウは全く持っておらず、コミュニケーション力、経験(実家が不動産会社で高校生の時に既にスーツを着て交渉事などをしてました)、キャラクター、副部長という肩書で何とかやっていましたが、あの時期は本当に大変でした。あの頃の私のような思いを本当にしてほしくないと強く思っています。
不動産関連の会社の後、研修・教育の業界に入り師匠の柴田純男先生と巡り合いました。柴田先生は苦情対応の国際標準規格ISO10002を日本に導入した中心人物の一人で、クレーム対応やコンプライアンス分野の研修の国内第一人者です。柴田先生のお話を初めて聞いた時は「これが目から鱗ということか!」と感じ、そこから勝手に押しかけ弟子になり数多くの自治体や企業・団体などで一緒に仕事をさせていただいて、6年前に独立起業して現在に至っております。現在は多くの県庁、政令指定都市、中核市など自治体や大手企業・団体でクレーム対応やコンプライアンス、ハラスメントなどの研修を実施しています。
この素晴らしい柴田先生のノウハウを、先生の一番弟子としてクレームに苦しむすべての人々に届けていくこと、正しく前向きな気持ちで働いていく高いコンプライアンス意識を持ってもらうことを推進すべく毎日を生きています。本日はその中でクレーム対応をするために必要な5つの気構えに付いてお話をします。
1.あなたへの個人攻撃ではない
大抵のクレームは「この怒りや悲しみの気持ちを何とかしろ」といった感情の問題か「俺の要求に従え」というもので、「対応が悪い」ことを責められること以外はあなたの人格を否定することは意外と少ないものです。慣れるまでは相手のことが怖いのは仕方ありませんが、相手は「あなたそのもの」を攻撃してくることは案外少ないと考えると良いでしょう。
2.ピンチはチャンスである
企業等では不当な要求は除いて、お客様の声は「お宝」と考えています。お客様の真の声であり、商品開発などに活かされる場合も多くあります。例えば明治乳業(現明治)のお客様相談室では「粉ミルクに髪の毛などが混じっている」といったクレームがあまりにも多く対応に苦慮をしていたのですが、ある社員が「粉だから異物が混ざる」ということに気づき、それからは明治のミルクはキューブ状の固形の物になりました。私は今11歳の娘をこれで育てましたが、異物が混じらないという清潔感と安心感がありますので大変良いものだと思っていました。
また、妻に靴をプレゼントして、自宅に帰って箱を開けたらパンプスのリボンの取り付けが左右で逆だったということでクレームをつけたことがありましたが、その店員さんの対応が素晴らしく、一回直に会いたいなと思って行ったら靴を買わされてしまった、つまり逆に私がファンになってしまったということがありました。クレームは対応次第でチャンスになるという好例だと言えます。写真はその現物です。
3.相手の感情を受け止め前向きに取り組む
上記の靴の事例のように、お客様からの正当な要望であれば積極的にお客様に寄り添いましょう。例えば新築の家を買って、朝起きたら新品のはずのフローリングに傷があったら、岩海苔の瓶を開けたら6cmくらいの木片が入っていたらどう思いますか?そんなことがあれば驚きますし、悲しい思いや怒りの感情が出て当然です。
正当なクレームを言ってくる方は「かわいそうな目に会っている」ということを理解しましょう。そのような気持ちですので思いやりを持ってお客様の気持ちに共感・受容・傾聴しながらお客様に寄り添って前向きに解決に向けて協力をしていく姿勢を持つことが大事です。
4.不当な要求には断じて屈しない
正当なお客様からの要望がクレームという形でついたならば3のように対応しますが、不当な要求に関しては断固受け入れないという強い気持ちを持つ必要があります。社会通念を踏み越えたような特別な対応はコンプライアンスの徹底されている今の日本社会においてむしろ「やり過ぎ」と思うくらいの意識を基本的に持って置くと良いでしょう。
5.お客様は神様ではない
お客様はお客様です。神様ではありません。歌や踊りというものはそもそも神様に捧げるものです。3年前に伊勢神宮の内宮さんで夜中に行われる神宮三大祭のひとつ、12月の月次祭(つきよみさい)に参加させていただきました。伊勢神宮は仏教と融合せず古来からの形式が残されていて、焚かれている火、鳴り渡る笙(雅楽で使われる吹く楽器)の音、肌寒さを感じ大変幻想的、原始的な人の神や自然への畏敬を感じるものでした。
そのような神様への祈りを捧げるときの歌や踊りをを、人の前でやるときも同じようにやりますということでお客様は神様のように扱うけれども、イコール神様では無いということです。
大体、自分のことを神様と思う神経が理解できないですね。昔、1回思い切って言い返したことがあります。「おお!神様でいらっしゃるのですか。それでしたら私のお願いを聞いていただけますよね?」これであっけに取られてしまい、矛先が収まったことがありますが、これはちょっとギャンブル性が強いのであまりお勧めはできません。
クレーム対応の目的は相手を言い負かすことではなく、納得をいただくこと、不当な要求には屈っしないことです。この5つの心構えを強く持ち、クレーム対応にも前向きな気持ちで立ち向かっていただければと思います。